国立循環器病研究センターの病院食が大変な評判になっているようです。一食あたりの塩分が2グラム程度で、1日合計しても6グラム未満と厚労省が勧める摂取量(1日10グラム以下)を十分に満たしているうえに、素材の旨みを引き出す京料理の手法を取り入れた食事は、入院患者さん達の高い評価を受け、退院後もぜひ食べたいという要望が強く、それが減塩レシピ(かるしおレシピ)の本となり、一般家庭用・業務用レシピの配信サービスとなり、百貨店での弁当販売になったと云います。病院側もこれを一過性のブームに終わらせないため、地域の特産品を使った「ご当地かるしおレシピ」のコンテストを催すと云いますから、スゴイ熱気です。
こうした減塩の話しを聞くとき、私自身はいつも非常に複雑な気持ちになります。上杉謙信が武田信玄に送った塩の話しを持ち出すまでもなく、塩は我々が生きるうえで絶対に必要不可欠のものであり、昔の日本人は味噌・しょうゆ・漬けものなどから、一日に30グラム以上もの塩分を摂っていたと云われ、減塩を勧める現代医学に何か割り切れないものを感じるからです。病院で点滴に使われるリンゲル液は、カエルから摘出した心臓を塩化ナトリウム単独の液に漬けると拍動が直ぐ止まるのに対し、塩化カルシウムや塩化カリウムを加えた液に漬けると、長く活動を続けることから発見されたと云います。つまり塩化ナトリウム単独では有害でも、複数の塩類が混ざるとお互いの拮抗作用が働き、有益に働くようになるのです。また、植物は塩化ナトリウム単独の溶液中では成長できませんが、この溶液に塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムなどを加えてゆくと、段々と成長が良くなり、海水を麦、エンドウ、ハクサイ、玉ねぎなどにかけた実験では、どれも枯れるどころか健全な成長を示し、甘みがぐっと増したと云います。こうした事実は植物にしろ動物にしろ、海から上陸した歴史を考えれば当然のことかもしれません。しかしいま店頭で売られている「食塩」は、イオン交換膜を使って精製した純度99%以上の「塩化ナトリウム」という化学物質であり、「天然の塩」とは全く異質のものでありながら、同じ「塩」という言葉で呼ぶところに問題があるように思います。桜沢如一が世界に広めたマクロビオティック(食事療法)の流れをくむ人たちは、みな健康維持のために塩(自然塩)を十分に摂ることを勧めています。塩は身体の生理機能を高めるもので、十分に摂らないと脳神経系や各臓器が十分に働かないため活力が生まれず、貧血、低体温、便秘症などになるからです。
そもそも「塩分過多」を云い始めたのは欧米の研究者たちだったそうです。というのは肉はナトリウムの塊りであり、肉食の欧米人は塩分過多、高血圧になりやすいからです。したがって肉食を控えるかカリウムの多い野菜を多く食べれば、むしろナトリウムは不足がちになり、塩分(自然塩)をしっかり補給する必要があるのです。自然塩は高価という問題はありますが、医療の立場からはいま販売されている「食塩」を問題視するべきであり、減塩レシピを考えるより野菜を中心にした食事で、自然塩をしっかり摂るレシピを考えるべきではないでしょうか。結局その方が医療費も安上がりになると思うのですが。
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