ところでわが家はこれまで、どちらかといえば菜食主義というか「伝統的和食」風の食事を主とし、肉食をあまりしてきませんでした。桜沢如一が世界に広めた「マクロビオティック」(玄米菜食)の考え方に賛同し、その流れを汲む人たちの、「長生きしたけりゃ肉は食べるな」(若杉友子)的考え方が正しいと信じてきたからです。しかし糖質制限食という全く逆の考え方があることにショックを受け、また自身の身体の変化から、「肉を食べる人は長生きする」(柴田博)という本を買って読んでみました。するとさまざまな地域で百寿者(100歳以上の高齢者)の調査を行った結果、いずれの地域でも長寿者は若い世代の人たちより肉を多く食べていて、その結果、脳卒中の減少、認知症・うつ・寝たきりの予防に役立っていると云うのです。私たちの身体に最も大切な栄養素であるタンパク質は、20種類のアミノ酸からできていて、多くは体内で合成されますが9種類は合成できず、「必須アミノ酸」として食べ物から摂る必要があります。この時「アミノ酸スコア」といって、その値が100に近いものほど必須アミノ酸のバランスがよいという指標があり、それによると牛乳・卵・肉・魚は100、大豆は86、玄米は68、精白米は65、小麦粉は44で、肉は人間の身体のアミノ酸構成に近く食べたときに無駄がないため、余分なアミノ酸の処理に臓器を酷使する必要がなく、身体の負担が減ってよいのだと云います。この考え方は対象がアミノ酸で糖質とは違いますが、結果的には糖質制限食に近い考え方となり、玄米菜食とは程遠いものと云えます。
ところで以前、こんな話しを聞いたことがあります。明治政府の招へいで日本に30年間滞在し、ドイツ医学を伝授したベルツ氏があるとき二人の人力車夫を雇い、三週間毎日、40キロを走らせたそうです。車夫の食事は米、麦、粟、ジャガイモなどの低タンパク、低脂肪の粗食だったので、氏はドイツ栄養学を運用すべく肉を食べさせたそうです。すると結果は二人とも疲労がはなはだしく募り、走破が不能になったと云います。そこで食事をもとの粗食に戻したところ、元通りに走れるようになったと云います。続いて氏は馬車と人力車とどちらが速いか、東京から日光までの100余キロで競わせたそうです。結果は馬車は馬を6回取り替えて14時間、人力車は一人で14時間半だったそうです。車体の重量差を考慮する必要がありますが、当時の車夫は馬並みの馬力を持っていて、ベルツ氏は一見「粗食」に見える日本食の威力に脱帽したと云います。
ところで先ほど触れたアミノ酸スコアによると大豆も精白米も100に届かず、数値的には肉より劣ることになります。しかし両者はお互いに相手の不足するアミノ酸を補完する関係にあり、大豆(大豆食品)と精白米(ごはん)を一緒に食べるとスコア的には100を満たすことになるそうです。ということは、肉をご飯と一緒に食べるとかえってアミノ酸に過不足が生じ、それが「肉は食べるな」という結果につながっているのかも知れません。
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