2014年7月5日土曜日

ミトコンドリア

 「人間は食べ物をエネルギーにして生きている」と、食べ物と人間のエネルギー代謝の概念を最初に築いたのは、現代化学の基礎を築いたフランスのラボアジェだそうです(18世紀後半)。その少し前に「養生訓」を著した貝原益軒(18世紀初期)も、食べ物が働く力の源であることは分かっていたのでしょうが、ただエネルギーと云う概念を持っていたかどうかとなると、やはりラボアジェに軍配を上げざるを得ないかも知れません。その後ドイツを中心にエネルギーの源を探る研究が始まり、炭水化物、脂質、タンパク質の三大栄養素が発見されたと云います。
 ところでこの地球上にまだ酸素がなかったころ、生物進化の初期に出現したのは「原核生物」と呼ばれる嫌気性微生物で、そのとき微生物が使ったエネルギーは糖を原料に、酸素を使わない「解糖」という化学反応によるものでした。しかしシアノバクテリアの出現で大気中に酸素が増えてくると原核生物は生きづらくなり、酸素が好きな「α-プロテオ細菌」との共生を図り、約8億年という長い時間をかけてその細菌を自らの細胞内に取り込み、その進化の結果として生まれてきたのが、いま地球上に住む私たち脊椎動物を始め植物などの「真核生物」だと云われます。私たちの身体の細胞の中に「ミトコンドリア」という小器官がありますが、それが共生のために取り込んだ細菌の名残だと云われます(私も高校時代に大嫌いな生物で勉強し、名前だけは覚えていました)。
私たちの身体にはエネルギーを作り出すのに、「解糖系」と「ミトコンドリア系」の2つのエンジンがあることを糖質制限食で触れました。解糖系はブドウ糖1分子を原料に、酸素を使わずに「ATP」というエネルギー源を2分子作ります。このときピルビン酸という物質も2分子作製され、このピルビン酸がミトコンドリア内部に運ばれると、そこで酸素を使ってさらに36分子のATPが作られます。つまり私たちの細胞内では原核生物の名残である細胞質で解糖系のエネルギー代謝が起き、続いて酸素が好きな細菌の名残のミトコンドリアで代謝が起きるのですが、生産されるエネルギーの量は酸素を使うミトコンドリア系が圧倒的に多く、生産効率が非常に良いと云えます。しかしその生成速度は解糖系によるものが圧倒的に速く、白筋(速筋)と呼ばれる瞬発力を必要とする筋肉(100m走やジャンプなど無酸素運動向きのもの)や細胞分裂の盛んな皮膚の細胞では、主に解糖系によるエネルギーが使われ、それらの細胞にはミトコンドリアの数も少ないと云われます。一方、赤筋(遅筋)と呼ばれる持久力を必要とする筋肉(水泳やジョギングなど有酸素運動向きのもの)や臓器などの一般の細胞では、ミトコンドリアで作られるエネルギーが主に使用され、細胞内のミトコンドリアの数も数百から数千と非常に多く、そこではブドウ糖の他に脂肪酸が代謝に利用されます。ただしミトコンドリアエンジンには弱点があり、エネルギーを作り出すときに電子のリーク(漏電)が起き、「フリーラジカル」という活性酸素が発生すると云います。
 子供時代は成長(細胞分裂)と瞬発力が主体で生きているためよく食べ、主に解糖系で生きていますが、大人になるにつれ段々と二つの系は調和し、中高年以降になると瞬発力より持久力が求められるようになり、エネルギーの生成は解糖系からミトコンドリア系にシフトします。だから食べる量は少なくてもよくなり、食べすぎるとかえって余った糖が脂肪に変わり、メタボになると云われます。細胞の成因から解糖系は酸素が嫌い、低温が好き、盛んに分裂増殖するというご先祖細胞(原核細胞)の性質をもち、逆にミトコンドリア系は酸素が好き、高温が好き、分裂を抑え活性酸素を発生するという性質をもち、私たちはこの全く異質な二つの生命体のバランスの上に生きているのだそうです。だから身体を酷使したり、過剰にストレスをかけると交感神経の緊張から血管収縮が強まり、血流が悪くなって低体温と低酸素を招き、解糖系が盛んになって脳梗塞や心筋梗塞、また糖尿病などメタボ関連の疾患が起きやすくなります。しかもこうした状態はミトコンドリアには不利なため分裂抑制遺伝子が機能を停止し、分裂促進遺伝子(ガン遺伝子)が活性化しやすくなります。つまりガン細胞にとってはフリーラジカルによる攻撃の恐れがなく、低温・低酸素で糖の多い解糖エンジン優位の方が増殖しやすいのです。したがってガンを治すには、ガン細胞の中で仮死状態に陥っているミトコンドリアを元気にさせることが重要で、そのためには副交感神経を優位にするような、リラックスして血流を良くしたり、適度な運動や温泉・風呂に入って身体を温めたり、深呼吸をして低体温と低酸素から脱却して免疫力を高めることが大切なのだそうです。そうすればミトコンドリアの分裂抑制機能が復活し、進行ガンでも回復に向かうと云います。
 特にミトコンドリア系主体で生きるお年寄りにとっては、ミトコンドリアが一番多い赤筋と脳神経が衰えて使えなくなると、寝たきり老人、認知症老人になると云いますから、適度な有酸素運動で筋肉量の減少を抑えたり(基礎代謝の維持)、いろんなことに好奇心を持ち、脳を使い続けることが非常に大切であると云えます。その意味である程度肉を食べることも重要なのかも知れません。
藤田紘一郎;”脳はバカ、腸はかしこい”、三五館(2013)
安保徹;”けんこう326”、NPO全日本健康自然食品協会


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